――未来を当てる本ではなく、未来を変えるための本です
防災や災害の話をすると、こんな印象を持たれることがあります。
「怖い話をする本なのではないか」
「最悪の未来を言い当てる“予言書”なのではないか」
最初に、はっきりお伝えしておきます。
本書『あなたの避難方法は間違っていないか』は、予言書ではありません。
未来を断定するための本でも、
恐怖を煽り、不安を広げるための本でもありません。
ここに書いているのは、
「もし、こういう条件が重なったら、こういう結果になりやすい」
という、条件の整理です。
災害も生活破綻も「突然」ではない
自然災害、産業事故、そして被災後の生活破綻。
それらの多くは、「突然起きた不幸」のように語られます。
しかし実際には、ほとんどの場合、
積み重なった条件の結果として起きています。
- 地形
- 風向
- 住宅形態
- 家族構成
- 法制度の前提条件
- その土地にある産業構造
これらが噛み合ったとき、
「逃げられない」「戻れない」「再建できない」状況が生まれます。
予言とは、未来を断定する行為です。
本書が行うのは、その逆。
- 何が起これば、何が起きるのか
- どの条件を外せば、最悪を避けられるのか
それを、できる限り冷静に分解していきます。
予言ではなく「条件」を語る理由
災害の本には、大きく分けて二つのタイプがあります。
ひとつは、
「いつ・どこで・何が起きる」と未来を断定する本。
もうひとつは、
「こういう条件が揃うと、こうなりやすい」と構造を示す本。
本書は、明確に後者を選びます。
なぜなら、人は予言には従えませんが、
条件には備えることができるからです。
地震が何月何日に起きるかは、誰にも分かりません。
しかし、次のような条件が重なったとき、何が起きやすいかは、すでに何度も現実が示しています。
- 産業地帯の風下に住宅地がある
- 高齢者比率が高い
- 賃貸・持ち家・借地が混在している
- 行政支援の前提条件を住民が知らない
本書は、こうした条件を一つずつ言語化し、可視化します。
未来を当てるためではなく、未来を変えるために。
なぜ恐怖を煽らないのか
恐怖は、一時的には人を動かします。
しかし、長期的には判断力を奪います。
- 怖いから逃げる
- 怖いから考えない
- 怖いから誰かの指示に従う
これは、防災において最も危険な状態です。
実際、多くの被災地で繰り返されてきたのは、次のような現実でした。
- 正しい制度があったのに、知らなかった
- 選択肢があったのに、考える余裕がなかった
- 後から「そんな話は聞いていない」と気づく
恐怖は行動を早める代わりに、
選択肢を減らします。
本書が目指すのは、行動を急がせることではありません。
選択肢を増やすことです。
だからこそ、数字も、制度も、裁判も、淡々と示します。
読者自身が冷静な状態で判断できること。
それが、この本の最低条件です。
この本が渡したいのは「答え」ではない
この本の最終目的は、結論を押し付けることではありません。
- あなたは逃げるべきだ
- あなたは残るべきだ
- この選択が正解だ
そう言い切ることは簡単です。
しかしそれは、責任を奪う行為でもあります。
本書が渡したいのは、答えではなく判断力です。
- 制度の前提条件を知る
- 行政と司法の立場の違いを知る
- 「善意」と「救済」が一致しない場面を知る
- 自分がどの条件に当てはまるかを考える
そのための材料を、すべて並べます。
判断するのは、読者自身です。
ただし――
「知らなかったせいで選べなかった」
という状態だけは、なくしたい。
この本は、そのために書かれています。

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